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蛋白質分解系の生理機能とその異常によって起こる疾患の解明

医療薬学分野 西屋 禎 教授

研究内容

体の機能を維持するために、私たちの体の中では、様々な化学反応が起こっています。この化学反応の多くは、酵素が触媒しています。したがって、酵素が無秩序に触媒反応を起こすと、体の機能に異常が生じます。酵素のほとんどは蛋白質です。蛋白質からなる酵素の活性は、主にその「発現」、「化学的修飾」、そして「分解」により制御されています。特に、いったん発現すると常に活性型として存在する蛋白質の多くは、分解により不活化されます。この“常活性型蛋白質”にベストなタイミングで「ユビキチン」という分解の目印を付けるのが「E3ユビキチンリガーゼ」と呼ばれる分子です(以下E3と略します)。目印がついた常活性型蛋白質は「プロテアソーム」と呼ばれる分解処理場に送られて分解・不活化されます。

E3は、蛋白質なら何でもかんでも目印を付けるわけではありません。E3は、現在ヒトで600種類ほど見つかっていますが、どのE3も各々特定の蛋白質にだけ目印を付けることができます。したがって、各E3がどのような蛋白質を認識し、「いつ・どこで・どのように」目印を付けるのかを明らかにすることは、体の中で起っている化学反応やその異常によって起こる病気の仕組みを理解する上で極めて重要です。

常活性型蛋白質の例として「誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)」があります。iNOSはアミノ酸の一種であるL-アルギニンから短時間に大量の一酸化窒素(NO)を合成することができます。一酸化窒素は、それ自体にグアニル酸シクラーゼという酵素を活性化するといった重要な生理作用がありますが、活性酸素と結合すると、非常に毒性の高いパーオキシナイトライトという物質に変わります。パーオキシナイトライトには、体内に侵入した病原体を殺すという重要な作用があります。しかしながら、過剰なパーオキシナイトライトは、私たち自身の細胞も傷つけてしまいます。したがって、過剰なNO産生が起こらないように、iNOSの寿命は厳密に制御されています。私たちの研究グループは、これまで一貫してiNOSの発現や活性制御に関わる分子機構を明らかにしてきました。その過程でiNOSに目印を付けるE3を発見しました(下図参照)。さらに、このE3がiNOS以外にも、「FOG-2」、「CDC14A」、並びに「CTTNBP2」という蛋白質に目印を付けることを見出しています。

表1に示したように、私たちが発見したE3(「ECS(SPSB)」といいます)によって目印が付けられる蛋白質の生理機能は多岐に渡ります。したがって、このE3がうまく働かない場合には、これらの蛋白質が正常に分解されなくなるために、広範な生理機能に影響が出ることが推測されます。最近、私たちは、600種類以上あるE3の中で、このE3だけを働かなくする方法を開発しました。この方法を用いて、このE3がうまく働かない場合に起こる様々な異常を観察し、最終的に、このE3が正しく機能することが、どういった生体機能調節に不可欠であるのかを明らかにするのが目標です。




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