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全身麻酔下の口腔外科手術中にエアタービンが原因で発生した肺空気塞栓症

2025.11.28

歯学部 准教授
安部 将太

【題名】全身麻酔下の口腔外科手術中にエアタービンが原因で発生した肺空気塞栓症

【背景】智歯抜歯術の臨床場面では、エアタービンから発生する圧縮空気が抜歯窩周囲の組織間隙や静脈内へ侵入する可能性がある。今回、親知らず抜歯中に皮下気腫(SE)が発生し、これに続いて肺空気塞栓症を発症した症例を経験したので報告する。

【症例】症例は47歳女性で、右側上下顎智歯周囲炎および複数の齲蝕が認められた。知的障害を有しており、侵襲性も考慮して右側上下顎智歯の抜歯は全身麻酔下で行う方針になった。日帰り全身麻酔による2回目の治療では、前回と同様の麻酔方法および気管挿管を行った。手術開始から約10分後に、モニター上で脈波およびETCO2が突然消失し、それに続いてSpO₂も急激に低下した。これらの臨床的な所見から心肺停止(CPA)が疑われ、心電図上でPEAと診断された。直ちに歯科用ユニット上でCPRを開始したが、ユニットが仰臥位のまま沈み込むため、有効な胸骨圧迫が困難であった。そこで、ユニットの背面にチェアを挿入してユニットを固定し、ユニットを安定させた。CPR開始から約3分後に、SpO₂の脈波が再びモニターに出現した。総合病院搬送後のCT検査により、圧縮空気を用いたエアタービンの使用に起因するSEと肺空気塞栓症が発症したと診断された。

【結語】本症例は、歯科処置における圧縮空気を用いたエアタービンの使用により、容易にSEが発生して、さらに組織間隙や静脈内を経由することで肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こす可能性を示している。したがって、圧縮空気を使用する器具やドリルを使用する際には、十分な注意と安全確認が求められる。

【論文情報】Abe S, Wakamatsu K, Takahashi K, Sato H, Yoshida K, Yamazaki S, Kawaai H. Pulmonary Air Embolism Caused by an Air Turbine During Oral Surgery Under General Anesthesia: A Case Report. Int Med Case Rep J. 2025, 18:1439-1446. doi: 10.2147/IMCRJ.S547085. eCollection 2025.



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