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研究紹介

抑うつ症状の発症に関わる脳内神経回路の解明~うつ病発症予防法の確立を目指して~

2025.07.15

薬学部 薬理学
教授 関 健二郎

[研究の背景と目的]
うつ病は、患者本人の生活の質を著しく低下させるだけでなく、家庭や社会にも深刻な影響を及ぼし、国内の経済的損失は年間2兆円を超えると推計されています。しかし、医学がこれほど進歩した現在でもうつ病発症機序が不明なため、特効薬は存在せず、世界的にも有病率が増加し続けています。恐怖や不安を制御する扁桃体および分界条床核は、いずれもGABA作動性神経を主要な構成要素とする皮質下領域であり、解剖学的および機能的に相互に神経伝達が維持されていることが知られています。本研究では、サイトカイン仮説に基づくモデルマウスを用い、抑うつ症状の一つである「絶望様行動」の発症に対して、扁桃体と分界条床核が構成するGABA作動性を主とした神経回路がどのように関与しているかを調べました。

[主な成果と意義]
本研究では、扁桃体および分界条床核におけるGABA作動性神経の機能を遺伝学的に操作し、サイトカインモデルマウスを用いて絶望様行動の発症に及ぼす影響を検討しました。脳内でサイトカインを誘導することで知られるリポ多糖(LPS)を投与した結果、扁桃体のGABA作動性神経を抑制したマウスでは絶望様行動が増強されることが明らかとなりました。一方で、分界条床核のGABA作動性神経の抑制は、絶望様行動をむしろ抑制しました。これら二つの領域が構成する神経回路を詳細に調べたところ、扁桃体由来のGABA作動性神経が分界条床核のGABA作動性神経を直接制御している可能性を見出しました。また、サイトカインの影響により分界条床核のGABA作動性神経の活動が脱抑制され、分界条床核内の局所回路が過剰に興奮することで絶望様行動が引き起こされることを明らかにしました。

[今後の展開や展望]
本研究は、サイトカイン仮説に基づく抑うつ症状発症に関与する脳内神経回路の一端を明らかにしたものであり、情動異常の神経基盤解明に資する重要な成果であると考えています。今後は、扁桃体–分界条床核回路の入力および出力構造や、神経ペプチドを含む多様な神経修飾機構を統合的に解析することで、うつ病の発症予防および早期治療に貢献する神経科学的知見の蓄積が期待されます。

[参考論文]
GABAergic circuit interaction between central amygdala and bed nucleus of the stria terminalis in lipopolysaccharide-induced despair-like behavior.
Physiology & Behavior doi: 10.1016/j.physbeh.2024.114753. 2024年



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