研究紹介

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研究紹介

微生物環境の最適化が顎骨壊死を防ぐ〜口腔微生物のバランスが副作用の現れ方を左右する〜

2025.07.14

歯学部 口腔病態解析制御学講座
教授 玉井利代子

[研究の背景と目的]
ビスフォスフォネート(BP)は骨吸収抑制薬として、骨粗鬆症や骨転移を伴う癌患者に広く使用されています。特に窒素含有BPは広く用いられていますが、副作用として炎症や顎骨壊死が報告されています。これらの副作用の発症には、歯周病原性細菌や口腔常在真菌であるカンジダ(Candida spp.)などの微生物が関与する可能性があります。カンジダは健常者に対しては病原性が低いですが、免疫不全状態ではカンジダ症を起こすのみならず、癌患者の生存率にも関与することが分かっています。さらに、カンジダと免疫チェックポイント分子 PD-L1 との相互作用も注目されています。
一方、BP使用者はCOVID-19の感染率や重症度が低いという観察報告もありましたが、その理由は明らかにされていません。我々はこの点に着目し、抗ウイルス作用を持つインターフェロンβ(IFN-β)産生へのBPの影響を調べました。

[主な成果と意義]
研究の結果、BP 単独ではマクロファージからの IFN-β 産生は誘導されませんでしたが、BP 前処理後に病原体刺激を加えるとIFN-βの産生が顕著に増加しました。また BP によって、ウイルス核酸センサーである cGAS および RIG-I の発現が増強することが明らかになりました。 BP が免疫系の抗ウイルス応答を増強しうることを示唆する重要な成果です。また、cGAS は抗腫瘍免疫を強化する役割も注目されています。
さらに、 BP が歯周病原性細菌による炎症を増悪させる可能性があり、パイロトーシスという細胞死を引き起こすことも確認されました。この過剰な炎症反応は、顎骨壊死の発症に関与する可能性があります。一方で、口腔ケアにより常在菌の数を抑えることができれば、 BP を用いた治療の安全性を高めることが可能です。

[今後の展開や展望]
最近の研究によって、 BP がメバロン酸経路を阻害することでアゾール系抗真菌薬との相乗効果を示すこと、さらにがん治療においては PD-L1 阻害薬との併用による治療効果の増強が期待されることも報告されています。特に、 PD-L1 を含む免疫チェックポイント経路への影響について詳細に解析することが重要です。また、 BP の副作用である顎骨壊死の予防には、病原性微生物の制御と口腔衛生の保持が鍵となります。今後は、 BP の免疫調節機能に着目した研究をさらに進めます。

[参考論文]  
研究の内容は、次の論文に掲載されています。
Candida Infections: The Role of Saliva in Oral Health-A Narrative Review.
Microorganisms. doi: 10.3390/microorganisms13040717. 2025年



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