研究紹介
2025.07.04
歯学部成長発育歯学講座歯科矯正学分野
教授 川鍋 仁
[研究の背景と目的]
口唇口蓋裂患者は, 出生頻度は約500人に1人で我が国の先天性疾患で最も多いと報告されています。
口唇口蓋裂患者では, 口腔と鼻腔が交通しており出生直後より哺乳機能が著しく損なわれてしまいます。そのため, 口蓋裂用の哺乳瓶を利用するか、それでも哺乳できない場合には栄養供給を維持すべく胃にチューブを留置し, 直接ミルクを注入する経管栄養を行うこともあります。その結果,正常な哺乳機能が営まれないため摂食嚥下機能の発育も停滞するだけでなく、ミルクの味を感じることなく成長しなければなりません。赤ちゃんにとってミルクは美味しいはずです。しかし味わいことができないのはとても不憫で有りなんとか我々の医療で改善してあげたいと思い日々治療に励んでおります。
また,口唇口蓋裂患者は,歯槽骨の連続性が失われており,生後約1歳6か月時に行われる口蓋形成手術時にその断裂している距離(顎裂幅)が大きい場合には手術が困難になり,手術侵襲が大きくなります。その結果,術後に生じる瘢痕組織の発生領域も大きくなります。この瘢痕組織によって,上顎の骨の成長が著しく抑制されるため受け口(下顎前突)を呈するのです。したがって,口蓋形成手術時に顎裂幅が小さければ,手術侵襲も小さく,瘢痕組織という傷口の発生領域が少なくなります。その結果,上顎の骨の成長抑制が少なくなり,良好な顎間関係が得られます。そこで、我々の研究する瘢痕形成の少ない治療法の確立が望まれています。
[主な成果と意義]
口唇口蓋裂患者に対しては,出生から成人に至るまで形成外科,小児科,耳鼻咽喉科,言語療法士,小児歯科,口腔外科,補綴科および矯正歯科などによるチーム医療が必要です。当科でも,福島県立医科大学形成外科と医療連携を実施しています。
従来では、生後3か月で唇を閉じる手術(口唇形成術)、生後1年6か月で口蓋を閉じる手術(口蓋形成術)および9―10歳で腰の骨を一部採取して上顎に移植(骨移植)する必要がありました。当医療チームでは、術前顎矯正治療の後に口唇形成、口蓋形成および歯肉骨膜形成術を一回で行う一期手術を行うことで哺乳や咬合および瘢痕組織形成の軽減を目的とした治療を行なっています。手術を1回で行うことにより子供の全身的負担および保護者の心理的な負担を少なくすることが可能となりました。また、本治療により骨移植を回避できる可能性もあり、画期的な治療であり世界でも我々のチームを含めて数施設でしか実施できない方法です。
[今後の展開や展望]
一期治療の精度と顎矯正治療のデジタル化などを推進し、口唇口蓋裂患者の治療成績の向上を目指してまいります。それにより世界中の子供たちが光り輝く未来を構築できるように医療に貢献したいと思います。
[参考論文]
本研究の内容は、次の論文に掲載されています。
・A Preliminary Study of Interdisciplinary Approach with a Single-Stage Surgery in. Children with Cleft Lip and Palate
Journal of personalized medicine doi;10.3390/jpm12101741 2022年
・Effect of Pre-Surgical orthopedic treatment on hard and soft tissue morphology in infants. with cleft lip and palate.
Diagnostics doi;10.3390/diagnostics13081444 2023年
・Research on Sleep Dynamics in Cleft Lip and Palate Patients Using Simple Sleep Testing. Journal of Clinical Medicine doi;10.3390/jcm12237254 2023年
・Examination of Respiratory Disturbance Index Before and After Cheiloplasty and. Palatoplasty. Diseases doi;10.3390/diseases13030064 2025年