研究紹介
2025.06.30
歯学部成長発育歯学講座歯科矯正学分野
講師 岡崎智世
[研究の背景と目的]
「口唇顎口蓋裂(こうしんがくこうがいれつ)」とは、生まれつき上くちびるや歯ぐき、口の奥の天井(口蓋)にすき間がある先天性の病気です。哺乳や発音、顔の成長に影響を及ぼすため、出生後早い段階から手術が必要となります。奥羽大学歯学部矯正歯科は、手術前の準備として、赤ちゃんの上あごの形を整える「術前顎矯正歯科治療」を行っています。この治療には、赤ちゃんの口の中の形に合わせた「口蓋床(こうがいしょう)」という装置を使います。その製作には、まず赤ちゃんの口の中の形を正確に記録する「型どり(印象採得)」が欠かせません。
しかし、従来の方法では柔らかい材料を口の中に入れて形を取るため、赤ちゃんが誤って材料を飲み込んでしまったり、呼吸がしづらくなったりするリスクがありました。そこで本研究では、「口腔内スキャナー」と呼ばれる機器を使って、材料を使わずにスキャンで安全に型どりができるかどうかを検討しました。
[主な成果と意義]
研究では、片側性口唇顎口蓋裂をもつ乳児7名を対象に、従来の印象材を使う方法と、スキャナーによる光学印象の2つの方法で、上あごの形を記録しました。その結果、光学印象でも十分に精密なデータが得られたうえ、誤嚥や呼吸障害といった偶発的なリスクを大幅に軽減できる可能性が示されました。
この成果は、赤ちゃんにとってより安全で安心な治療環境を提供するだけでなく、医療従事者の負担軽減にもつながります。また、感染症のリスクがある場面においても、非接触に近い方法として有用性が高いと考えられます。
[今後の展開や展望]
今後は、さまざまな症例においてこの方法を活用し、安全性と有効性のさらなる検証を進めていきます。またこの技術は、口唇顎口蓋裂のある赤ちゃんだけでなく、型どりが難しいほかの小児患者にも応用できる可能性があります。私たちは、子どもたちの健やかな成長と治療の安全性を第一に考え、これからも医療の現場に寄り添った研究を進めてまいります。
[参考論文]
本研究の内容は、次の論文に掲載されています。
Comparison of conventional impression making and intraoral scanning for the study of unilateral cleft lip and palate
Congenital Anomalies, Vol. 63, pp. 16–22, 2023年