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グリーンサスティナブルケミストリーを志向した医薬品製造法を目指して
― 酵素制御法による生理活性物質の安心、安全なエコ型製造法の開発 ―

薬学部 薬品製造化学分野
竹元 万壽美 教授

研究内容

科学の世界は19世紀の初め一挙に活性化し医薬革命を生み抗生物質の誕生は多くの人命を救い、20世紀には物質世界は一変し人々の生活は格段に向上しました。しかし、限りある資源の急速な消費、医薬品を含めた化学物質の製造、使用、廃棄が人々の健康と地球環境を損ないました。代表的事件では医薬品ではサリドマイド、公害では水俣病があり、この悲しい事件を決して忘れることなく二度と引き起こさないよう、21世紀は20世紀の反省のもとにアメリカ環境省とヨーロッパを中心としたOECDが提案したグリーンサスティナブルケミストリー精神に従い限られた資源を有効に利用し再利用すると同時に環境への負荷を軽くする科学技術が求められています。


グリーンサスティナブルケミストリーと医薬品製造の問題点

グリーンサスティナブルケミストリーとは化学製品の生産から廃棄まで全てのライフサイクルにおいて生態系に与える影響を最小限にし、経済的効率性を向上させるとともにリサイクルによる省資源化を通じて持続成長可能な産業をめざすものです。このグリーンサスティナブルケミストリーを評価する指標の一つにE-ファクターがあります。化学物質を製造する場合、必ず目的生成物以外に副生成物が生成する場合がほとんどです。E-ファクターとは副生成物量を目的生成物量で除した値をさします。薬学部に進学しますと、有機化学から医薬品製造法まで学びます。医薬品は何工程もの化学反応を用いて製造するため医薬品製造ではE-ファクターの値は25から100を示します。つまり医薬品などでは製品の25倍から100倍量の化学物質が廃棄されることになります。他の化学製品に比べE-ファクターが高く、特に医薬品製造ではグリーンサスティナブルケミストリーを推進していかなければなりません。


グリーンサスティナブルケミストリーを満足する医薬品製造法とは?

グリーンサスティナブルケミストリーには科学を学ぶ初心者および中級者(小学生、中学生、高校生、大学生、大学院生)から科学研究者、科学に携わる全ての人が絶対に守るべき12か条があります。特に医薬品製造に関わるところを抜粋します。

  1. 廃棄物は『出してから処理ではなく』出さない。
  2. 人体と環境に害の少ない(医薬品では副作用が少ない。環境に悪影響をもたらす重金属試薬を使用しない)反応物、生成物にする。(サリドマイド事件により、医薬品はラセミ体ではなく光学活性体で提供しようと多くの研究者が日々努力しています)
  3. 原料は枯渇性資源ではなく再生可能な資源から得る。
  4. 途中の修飾反応はできるだけ避ける。
  5. できる限り触媒反応を目指す。

酵素制御法による生理活性物質のグリーンサスティナブルケミストリー製造法の開発

私は、上記に記載しましたグリーンサスティナブルケミストリーを満足できる方法論として遺伝子組み換え技術を全く使わない「伝統的バイオテクノロジー」と発酵法を母体とし生体触媒特に植物培養細胞の持つ酵素の特性を最大限に生かす方法論を開発しました。特に最近は酵素対象を植物培養細胞から植物、食品にまで拡大し、植物または食品中の微量成分の大量生産技術から健康食品素材、食品加工用酵素、衛生検査システムに至るまで幅広い分野を研究対象としています。


植物培養細胞及び植物には様々な酵素が存在します。特に以下の酵素を用いた生理活性物質の合成に必要な各種新規反応を開発してきました。


酸化還元酵素、加水分解酵素、ペルオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、脱炭酸酵素、水酸化酵素、発光酵素等


私は、植物培養細胞や植物中に存在する各種酵素を選択的に発現させたり、組み合わせする操作を酵素を単離することなく植物培養細胞中や植物中に多数存在する酵素を①単一で用いる②複数の酵素を組み合わせる 等の操作を各種酵素毎に相応しい反応系つまり遠隔操作が可能な反応システムを開発しました。代表的な反応例をご紹介したいと思います。


茶葉から紅茶テアフラビンの超高効率・高選択的生産法(バイオプロセス生産法)

紅茶テアフラビン(TF)は紅茶の紅い色素ですが、紅茶中には僅か0.08%しか含まれていない超微量主成分です。しかしその機能性(抗菌性、抗酸化活性、抗腫瘍活性、血糖値上昇抑制作用、体重増加抑制、内蔵脂肪沈着抑制、血小板凝集阻害活性、抗発ガンプロモーション活性など)は緑茶カテキンを上回るともいわれスーパーカテキンと呼ばれています。しかし現在経済性に優れた効率的合成法の報告はありません。 私は茶園で栽培されている生の茶葉を原料とし、茶葉中に含まれている酵素と全ての緑茶カテキン類を利用し、全ての緑茶カテキンをテアフラビンに完全変換させる経済性に非常に優れたバイオプロセス合成法に成功しました。この方法は、上記グリーンケミストリーの1から5を全て満足する製法です。 (これらの研究成果の一部は特許として査定されるとともに、さらに国内及び国際出願しております)


茶葉から紅茶テアフラビン及びプーアール茶没食子酸を高濃度含有する生活習慣病対策飲料の開発

茶には緑茶、紅茶、ウーロン茶、プーアール茶、ギャバロン茶がありますが、それぞれに有用な生理活性を有す茶成分が微量でありながら豊富に含まれています。しかしこれらのお茶は全て製法が異なる上、お茶の製法をする過程で本来生の茶葉に含有されていた機能性成分が消失するなどの欠点があります。


私は生の茶葉中に含まれてる茶成分と酵素を制御すれば自由自在に各種茶成分を大量に生成することが可能と考え様々なタイプの茶飲料を開発しました。本飲料製造法の最大の特徴は、緑茶、紅茶、ウーロン茶、プーアール茶、ギャバロン茶に含まれている機能性茶成分(緑茶カテキン、紅茶テアフラビン、プーアール茶没食子酸、ギャバロン茶γ-アミノ酪酸、茶葉食物繊維、茶葉アミノ酸のテアニン、発酵茶に特有な香り成分)を全て含有し動物実験の機能性検証から通常の茶飲料に比べ生活習慣病対策に非常に有用であることを見いだしました。また現在、動物実験により抗ストレス作用(共同実験成果)も見いだされ新飲料としての期待がさらに高まりました。(これらの研究成果は約30件の特許を国内及び国際出願しております)


茶葉から各種茶成分及び必須アミノ酸高濃度含有穀物粉食品(薬食同源栄養機能食品)の開発

医療費削減下、薬食同源が見直されています。医学の進歩により今まで延命できなかった様々な病気が克服され多くの尊い命が助かりましたが、この命を長くつなぎ止めるのに一生、薬を飲み続けなければならない患者様も多くいらっしゃいます。この場合、一生の高額医療費と、副作用を解決しなければ患者様のQOLを高めることができません。紅茶テアフラビンには患者様のQOLを高められる可能性も示唆され、主食をとりながら、スイーツをとりながら健康に役立つ商品開発を目指しました。穀物粉の発酵食品(パン、麺類、スイーツなど)は必須アミノ酸であるリジンが欠乏している食品です。そこで穀物粉と生茶葉を原料にして各種発酵食品の製造法を開発(特許出願中)し、紅茶成分テアフラビンだけでなく、必須アミノ酸リジン生成、旨味のグルタミン酸、疲労回復に重要な各種アミノ酸、γ-アミノ酪酸の生成量を格段に増量させました。この製造法で開発したパンや、麺類を用いた動物実験による機能性検証でも、生活習慣病対策に非常に有効であることを見いだしました。


ラセミアルコールのキラルアルコールへの完全変換(ラセミアルコールの脱ラセミ化反応)


日々草培養細胞にラセミアルコールを加えるだけで、キラルアルコール(光学活性アルコール)へと完全に変換する夢の反応に成功しました。本反応の機構は、ラセミ体のうち、(S)体が迅速に酸化されケトン体が生成されるが、単離されることなく直ちに(R)体へと不斉還元される。一方、(R)体は酸化反応に対し安定であったため、全てのラセミ体がキラル体へと完全変換した画期的反応です。


2-ナフトールのアトロプ選択的ビアリールカップリング反応


一般にペルオキシダーゼを用いたラジカル反応では不斉構築が出来ないといわれていましたが、ペルオキシダーゼ活性に優れた茶培養細胞中に2-ナフトール及び過酸化水素を添加すると、アトロプ選択的に2量化反応が進行しました。


茶で抗ガン剤が合成できる???

エトポシドは世界中で使われている白血病、肺ガン、肝臓ガンに有効な植物由来抗ガン剤です。エトポシドの合成法はPodophyllum peltatum の樹木を伐採しポドフィロトキシンを抽出した後、化学変換しますが、近年の世界的森林保護の高揚により新規合成法が望まれていました。


私はポドフィロトキシンを含有しない茶の酵素を用いポドフィロトキシンの合成法を開発しました。本法の利点を以下に挙げます。

  1. 茶の酵素を用いた安全かつ省エネルギー対策型合成法
  2. 茶の成分ではない他の植物の有効成分が合成できる
  3. 茶の酵素は固定化することにより何回もリサイクルが可能
  4. 二十一世紀型グリーンケミストリーに基づいた医薬品合成法

今後の展開

今、現在各種茶成分のバイオプロセス生産法や食品の開発に特に重点的に取り組んでいます。


スーパーカテキンテアフラビンに関しましては多くの特許を出願し、現在数社の企業と共同研究を行い実用化に向け取り組んでおります。すでに商品化されたテアフラビン含有食品もあります。

医療費削減下の現状、テアフラビンをはじめとして各種茶成分が薬食同源として見直されて病気の予防や治療まで展開ができるよう日々研究を行っていきたいと思います。

教員紹介
竹元 万壽美 教授