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非線形混合効果(Nonliner Mixed Effect Model:NONMEM)による薬物動態解析

薬学部 医療薬学 薬剤学分野(生物薬剤学) 河野 晴一 教授

研究内容

疾患中心であった医療が、ヒトゲノム計画によるDNA配列の解読や個々人で異なる一塩基多型 (SNP) の特定、DNAマイクロアレイなどによる大量の情報を瞬時に取得できる技術の発達によって個々人の差異を観測できるなど時代の変化に伴ってある患者個人に最適な治療方法を計画されるようになってきました。オーダーメ-ド医療の始動と言えるでしょう。

研究紹介の題名が非線形混合効果(Nonliner Mixed Effect Model:以下NONMEM)による薬物動態解析と書かれていることに読者はとても難しく感じられるかもしれません。そこで、できるだけ、わかりやすく解説したいと思います。

ヒトの体の中の薬物動態に基づく合理的な患者個別化投与計画を行うためには、投与量と血中濃度との法則性を知るとともに、個人差を引き起こす病態生理学的・薬剤学的要因の解明が必要となります。ここで、母集団という言葉の意味を簡単に説明しましょう。母集団とは、調査対象のとなる数値、属性等の源泉となる集合全体を意味します。

母集団における薬物の平均的な体内動態パラメータ値の推定することの意義を以下に列挙します。

  1. ある薬がその患者に有効であるかどうか。
  2. 投与量や副作用について推定ことでどの薬を用いるのが正しいか。
  3. どの程度の投与を行うかことが分かるか。

医薬品の適正使用のためには、個々の患者に対して適正な薬剤を選択し、最適な用量を投与する必要があります。しかし、同じ用量を投与しても人によっては効果が異なる個人差の問題は、薬を処方する上で難しい問題です。薬物動態に基づく合理的な患者個別化投与計画を行うためには、投与量と血中濃度との法則性を知るとともに、個人差を引き起こす病態生理学的・薬剤学的要因の解明が要求されます。具体的に以下に示します。

  1. 腎機能や肝機能低下が薬物クリアランスに及ぼす影響。
  2. 加齢がもたらす薬物排泄や体内分布への影響。
  3. 併用薬や遺伝多型による影響などの情報が豊富なほど患者の個人的特徴にあわせた薬物治療が可能となる。

医薬品が適用となる患者母集団における薬物動態の平均パラメータ値、それに影響を及ぼす病態生理学的・薬剤学的要因、個体間・個体変動の定量的特性値を求める方法論がNONMEM法です。母集団における薬物の平均的な体内動態パラメータ値の推定には、 薬剤師は医薬品の薬物動態研究にこのNONMEM法を積極的に取り入れて効率良く有効に活用し、患者個別化投与計画へのアプローチとして利用が勧められます。
 NONMEM法には以下の利点があります。

  1. 各被験者からは全体としてほぼランダムな時点に個人として最低 1 ポイントの測定点が得られれば解析可能です。
  2. 体内動態パラメータと病態生理学的・薬剤学的要因との関係の検討も、あらかじめ検討目的の要因を有する被験者を層別化しておく必要はなく、ランダムに多くの被験者から測定点を得ておき、解析の過程で有意な関係を検定できる特徴を持っています。
  3. 一人当たりの血中濃度測定が 1 ~ 3 点と少なくても、多くの被験者からデータを集め、集団として十分な情報量があれば解析可能です。
  4. 個人差を引き起こす影響因子を見出し、定量的に把握可能です。
  5. 特殊集団における薬物動態評価と用量調整の根拠を見出せます。
  6. 薬物相互作用のスクリーニングが可能です。

以上のことから、成人だけではなく小児や高齢者における薬物動態研究にもこの方法論を積極的に取り入れて、患者個別化投与計画に効率良く有効に活用すべきことがわかります。
 NONMEM法を詳しく理解するためには、何冊もの専門書を紐解かなければなりません。最初のステップを図で順番にご説明したいと思います。 まず、薬物動態とは図2で示すように、血中濃度が投与量、吸収、分布、代謝、排泄といった薬物動態パラメータで示されるものです。


[図2]薬物動態とは


NONMEM法による母集団薬物動態(PPK)とは個人毎の薬物動態を論じるのではなく、被験者が属する集団の薬物動態の特性を表現する手法→集団の平均値とばらつき(誤差)の大きさを考慮する集団を構成する被験者の薬物濃度推移が母集団平均・個体間変動・個体内変動で構成されていると考えます(誤差には2種類ある)。母集団平均と個体間変動と個体内変動は[図3]で表されます。


[図3]母集団平均と個体間変動と個体内変動

NONMEM法(非線形混合効果モデル)のモデルは図4で表されます。
図4.母集団平均、個体間変動および個体内変動を同時に推定する。



[表1]非線形混合効果モデルフィッテイング

解析のプロセスは以下の[図5]の順に実行します。


[図5]NONMEM法解プロセス

解析結果の妥当性について下図に説明します。


[図6]解析結果の妥当性:Goodness of Fit


[図7]Goodness of Fit (GOF)のプロット(1)


[図8]Goodness of Fit (GOF)のプロットの解釈


[図9]Goodness of Fit (GOF)のプロット(1)

解析モデルの妥当性の検討:ブートストラップ法


[図10] 解析モデルの妥当性の検討:ブートストラップ法
解析モデルの妥当性の検討:Prediactive check


[図11]解析モデルの妥当性の検討:Prediactive check


[図12]患者個別化投与計画の流れ

最後に 薬物の吸収、分布、代謝及び排泄には年齢差、個人差があり、発作抑制に有効な薬物濃度も個々で異なる。これらの点に治療薬物モニタリングの実施と母集団薬物動態解析の意義がある。また、各々の薬物動態学的特徴を考慮した患者個別化投与計画を進める必要があり、その流れを図12に示しました。最適な薬物治療に際しては、投与量を血中濃度面から規定する必要性もありますが、併用薬物間の相互作用の問題も含めて、血中濃度のみを根拠に薬物治療を行うべきではありません。個々の臨床経過と合わせて投与量を決定することが臨床上、もっとも重要と考えます。


教員紹介
河野 晴一 教授