研究紹介

HOME > 研究紹介 > がん薬物治療評価学研究

がん薬物治療評価学研究

薬学部 医療薬学 疾患薬理学分野 井上 忠夫 教授

研究の概要

医療分野で注目されているベイズ統計を薬物治療の分野に応用し、この研究室では薬物治療評価学の確立を目指す研究に取り組んでいます。特にがん薬物治療の研究分野は著しい進歩を遂げているが高価な薬剤を投与してもQALYs(質で調整した生存年)の延長はそれほど優れた結果に結びついていません。それを証明するのもこの研究室の目的でもあります。

研究室では、がん薬物治療の臨床効果と臨床判断分析を用いて臨床的エビデンスと経済的エビデンスを統合したベイズ統計により様々な解析を行っています。その代表的な研究は、ベイズ・メタ解析、Bayes-Mixed treatment comparisions meta-analysis(Bayes MTC-meta-analysis)、Bayesian-cost・efectiveness modellingなどであります。そして、得られた研究結果を臨床の場に再び還元する循環型がん薬物治療評価学研究を行う事を最終目標としています。


1.Bayes meta-analysisにおけるがん薬物治療評価に関する研究

ベイズ統計によるメタアナリシスは従来の方法に比べていくつかの利点があります。まず、ベイズは全てのレベルのデータ(個々の患者、臨床試験、およびそれらの集計)に付随する不確実性を説明することができ、研究に潜む真の効果について信頼のおける予測ができます。また、ベイズ統計によるメタアナリシスの結果は、臨床判断分析を実施する場合の臨床データに応用が可能であります。ベイズ統計の予測能力は、未知あるいは議論中の臨床的課題を解決するための追加の臨床試験を実施することにより得られる期待効果の予測を可能にします。

ベイズの定理とは、臨床試験で得られた観測データを基にして、そのデータの母集団について確率論的に推定する体系の一つであります。その基本公式は、


>P(θ|X): 結果がXの時に観測データθが得られる確率(事前確率)
P(θ): 観測データθが得られる確率 (尤度)
P(X|θ): 観測データ θが得られる時に結果Xである確率(事後確率)
P(X): 結果Xの確率

解析には、ベイズ階層モデルを用い変量効果のパラメータ(ハイパーパラメータ)であるδτ2に無情報事前分布を仮定しています。事後分布の解析には、マルコフ連鎖モンテカルロ法(ギブスサンプリング)を用いることが一般的であります。
変量効果モデルは次のように示すことができます。
rc~Binomial(nc,pc)
rt~Binomial(nt,pt)
logit(πic)=μ,logit(πit)=μi+δi,δi~N(δ,τ2)
パラメータπiは真の事象発現割合、μiは対照群の事象発現割合に於ける対数オッズ比、δiは真の治療効果、δ、τ2は平均と分散を示します。
また、治療効果が対照群のイベント発生率に依存しているかどうかを検討するために回帰パラメータβを設定します。
δ=δ*+β(μ-aberage(μ))、δ*~N(δ、τ2)



[図1.ベイズの定理]

2.Bayes-Mixed treatment comparisions meta-analysisによるがん薬物治療の臨床評価

この研究の目的で用いる、Bayes-Mixed treatment comparisions meta-analysisとは、治療薬A対治療薬B、治療薬A対治療薬C、治療薬A対治療薬Dを比較する直接的ランダム化比較試験から、治療薬B対治療薬C、治療薬B対治療薬D、治療薬C対治療薬Dの間接的な推定値をベイズ統計を用いて予測し治療効果の有用性を治療薬A,B,C、Dから最適な治療薬を確率的に選択することにあります。図2


[図2.Bayes-Mixed treatment comparisons meta-analysis(Bayes-MTC meta-analysis:混合治療メタ解析)]

3.マルコフモデルにおける臨床判断分析とがん薬物治療の臨床評価

マルコフモデルとは、ある健康状態から別の健康状態へ移行するような複雑な臨床経過を、より正確に表現する方法として臨床判断分析で使用されています。図3
たとえば、無作為化比較試験などでは、対象となる患者の結果を何年後における生か死として捕らえていますが、マルコフモデルによる臨床判断分析では何年後までの有効性を生活の質で調整した余命(quality-adjusted life year:QALY)で表しています。マルコフモデルによる臨床判断分析から、がん薬物治療の最適なレジメンを総合的に評価検討し医療の現場に提供するための研究を進めています。


[図3.マルコフモデルの臨床判断分析]
教員紹介
井上 忠夫 教授