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実験動物(マウス)を用いたかゆみの研究

薬学部 生物・衛生化学 野島 浩史 教授

研究内容

1.かゆみの発症と調節機序

かゆみは極めて不快な感覚です。かゆみは、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患をもつ患者では皮膚局所に、肝・胆道系疾患をもつ患者などでは全身に発生します(下左図)。また、かゆみは医薬品の副作用としても生じることがあります(下右図)。ヒスタミンがかゆみの主なメディエーターとして考えられてはいますが、抗ヒスタミン薬が効きにくいかゆみが多いのが現状です。このことは、かゆみの発生に、ヒスタミン以外の物質が関与することを示しています。現在、ヒスタミンの関与しないかゆみモデルや皮膚乾燥性のかゆみモデルマウスなどを作製して、そのかゆみの発症機序と調節機構について研究を行っています。


2.かゆみの発症とストレス

アトピー性皮膚炎の患者ではストレスが皮膚症状を悪化させます。その悪化は患部を掻くことによって起こることから、ストレスはかゆみを増強する可能性があります。これを動物実験で検証するために、かゆみマウスモデルを作製して、心理的なストレス負荷がかゆみの発症に与える影響について検討しています。ストレスが皮膚に与える影響については、他の研究者が、マウスへのストレス負荷が皮膚のバリア機能を低下(乾燥)し、保湿に関与するセラミド量が減少させる、また皮膚のマスト細胞(かゆみを引き起こすメディエーターを多く含む細胞)の脱顆粒を誘発することなどを報告しています。これらの結果は、ストレスがかゆみの発症あるいは増強に関与することを強く示唆しています。私たちは、現在マウスの飼育環境の変化(心理的なストレス負荷)がかゆみ関連の行動にどう影響するかについて観察をしています。


3.漢方製剤の鎮痒作用

かゆみの治療に用いられている漢方製剤の鎮痒作用とその作用機序を、数種のかゆみモデルを用いて検討しています。その結果、漢方製剤のなかには、乾燥皮膚のかゆみに効果のあるものや、ヒスタミンのかゆみに効果のあるもの、あるいは痛みを伴うかゆみに効果のあるものなどが分かってきました。このように、かゆみの種類によって漢方製剤を使い分ける必要のあることが明らかになりつつあります。


4.マウスの皮膚枝神経の活動を指標にした鎮痒作用部位の評価

鎮痒効果をもつ薬物の作用部位を検討する目的で、麻酔したマウスで背部皮膚を支配する皮膚枝神経(脊髄神経)の活動電位を細胞外記録する評価系を2000年につくりました*。右図のように背部神経の受容野の皮内にかゆみ物質のヒスタミンを注射すると、神経に活動電位が誘発されます。この活動電位の発生頻度の時間経過は、かゆみ行動の指標としているマウスの掻き動作の出現頻度の経過と類似しています。この実験系を利用して、鎮痒の作用部位が中枢か末梢かについて検討しています。

*Maekawa T, Nojima H, Kuraishi Y.: Itch-associated responses of afferent nerve innervating the murine skin: different effects of histamine and serotonin in ICR and ddY mice. Jpn J Pharmacol. 84, 462-6, 2000


5.新しいかゆみモデルマウスの作製

1で示したように、肝・胆道疾患や腎不全の患者では全身のかゆみが生じることが知られています。そんなかゆみの治療薬を見つけるための基礎研究を行うためには、新しいかゆみモデルを作製し確立することが不可欠です。現在、私たちも胆汁うっ滞マウスや腎不全マウスを作製してかゆみの発症経過を観察していますが、薬物の鎮痒効果を評価できるようなモデルの作製には成功していません。他のかゆみの研究者たちが薬物評価の可能な新しいかゆみモデルを開発することを期待しています。


6.かゆみの研究について考えていること

『かゆみは深刻な症状である』というのが、かゆみの研究を行う際の基本的な考えです。多くの研究者は、『かゆみを治療するための新しい薬を創る』ことが研究目標でしょうが、私は『現在使用されている医薬品の中でかゆみに効果のある可能性のあるものを見つけ出して、その情報を提供する』という考え方で研究を行っています。その際、常に『マウスはいま本当にかゆいのだろうか』とマウスに、そして自分に問いかけながら実験をしています。

教員紹介
野島 浩史 教授