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特別講演事前抄録

演題:歯周炎とインプラント周囲炎の原因細胞が異なる可能性
演者:大島光宏
所属:奥羽大学薬学部生化学分野

歯周組織の疾患は「歯周病」とひとくくりにされがちであるが、歯磨きによって治癒する歯肉炎と、歯を失う歯周炎とに分けられる。日本には約700万人の歯周炎患者がいると推定され、歯周炎による年間抜歯数が613万本程度と見込まれているので、単純計算では年間に歯周炎患者ひとり1本ずつ歯を失っていることになる。

歯周炎の原因は長いあいだ不明とされてきたが、50年ほど前に歯に付着した細菌性プラークと歯肉炎との関係が証明された途端、歯周炎の原因までが細菌となり、(細菌は上皮の外側なのにもかかわらず)“感染症”ということになってしまった。そして口腔常在菌のいくつかは、“歯周病(原)菌”という汚名を着せられ、“本当の原因”が特定されないまま50年以上が経過し、根本的な解決にはほど遠い状態が続いている。

演者は、“諸悪の根源は細菌”という世のパラダイムに疑問を感じ、腫瘍と同じ“創傷治癒”が歯周炎の原因なのではないかと考えた。歯は生体表面の上皮の連続性を破って生体外に露出している唯一の硬組織であり、歯の周りを生体が創傷と認識することによって、歯根を上皮で覆う反応が起きた結果、歯が抜けるのではないかと考えた。

そこで線維芽細胞と歯肉上皮細胞を組み合わせた三次元培養を行ったところ、歯周炎罹患歯肉由来の線維芽細胞をゲル内に播種した場合に、コラーゲンが極度に分解された。この細胞を歯周炎関連線維芽細胞(PAF)と名付け、歯周炎の大きなリスクがこの線維芽細胞(原因細胞に近い?)によるのではないかと考えた。この三次元培養系を“生体外歯周炎モデル”と命名し、コラーゲン分解を阻害する治療薬候補のスクリーニングを行ったところ、抗HGF中和抗体や、あるmiRNA阻害剤が候補に挙がった。現在、歯周炎を自然発症したカニクイザルを用いた前臨床試験を開始するところである。

ごく最近、インプラント周囲炎罹患歯肉からもPAFとよく似た細胞が分離できた。ところがこの細胞は、PAFと比べてコラーゲン分解能が非常に高いだけでなく、歯周炎の治療薬候補となっている抗HGF中和抗体や、あるmiRNA阻害剤が“生体外歯周炎モデル”では全く奏功しなかった。そこで今後は各種の網羅的解析を行ってPAFとの相違を明らかにし、有効な治療薬候補を一刻も早く見出したいと計画している。インプラント周囲炎が歯科の医原病として大きな問題となる前に、この細胞の統合解析によって生物学的な診断法や禁忌症例の選択法、治療薬および予防法も見いだせれば、多くの患者さんが安心してインプラント治療を受けられる日が来ると考えている。

略歴:1982年 日本大学歯学部卒業
   1987年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了
   1987年 日本大学歯学部生化学教室助手
   2004年 日本大学歯学部生化学教室講師
   2004年 王立カロリンスカ研究所がんセンター短期留学
   2010年 奥羽大学薬学部教授

リフレッシュセミナー事前抄録

演題:頭頸部動注化学療法における腫瘍栄養血管と留意点
演者:中里龍彦
所属:総合南東北病院 頭頸部画像診断センター

頭頸部悪性腫瘍に対する動注化学療法は上顎癌での全国多施設共同試験も開始され、口腔癌では持続動注療法も一般的となり,標準化されつつある。十分な治療効果と安全性を確保するためには選択血管に対する解剖学的知識や選択技術、同定法が重要である。本講演では動注化学療法が施行される領域別の腫瘍への栄養血管の特徴とピットホールおよび注意点などについて述べる。

舌および口腔底腫瘍
舌腫瘍へは通常、舌動脈の深舌動脈からの舌背枝が栄養血管となる。腫瘍進展や動脈閉塞・狭窄によっては対側の舌動脈の検索が必要となりインジゴカルミンによる同定が不可欠である。術後症例では複雑で皮弁血管や顔面動脈、顎動脈の検索が必要となる場合がある。また治療の経過とともに支配領域の変化もあり、薬剤配分に配慮が必要となる。口腔底進展例や口腔底原発腫瘍では、舌動脈の舌下動脈とともに顔面動脈の正中下顎枝、オトガイ下動脈からも種々の割合で灌流される。

下顎歯肉腫瘍
主な栄養血管は顔面動脈や舌動脈であるが同時に顎骨深部からの下歯槽動脈を捉えることが重要である。また臼歯部歯肉では下歯槽動脈の臼後枝(水平枝)が臼後部歯肉から前口蓋弓の間の粘膜を栄養しており臼歯部歯肉癌の後方進展例や側壁型中咽頭癌の前方進展例で確認が必要となる。

上顎歯肉腫瘍
顎動脈、顔面動脈からの血流を受け後上歯槽動脈や下行口蓋動脈からも栄養され、頬粘膜を含む場合は顔面動脈や頬動脈からも血流を受ける。また、上顎洞内に進展する例では、洞内腫瘍と同様に蝶口蓋動脈の洞枝など洞腫瘍の下方進展例に準じた動脈枝が関与してくる。

上顎洞腫瘍
上顎洞原発腫瘍へは顎動脈の蝶口蓋動脈や眼窩下動脈の小動脈枝が分布するが前方進展例では、顔面動脈、側方拡大例では顔面横動脈が灌流する。また、洞後方進展例では内・外側翼突筋、側頭筋の咀嚼筋間隙に進展し副硬膜動脈、顎動脈の翼突筋枝その他の顎動脈、外頸動脈本幹からの細かい直接枝が多く分布する。眼窩進展例では顎動脈の眼窩枝や内頚動脈からの眼動脈の前・後篩骨動脈も分布する。この眼動脈分岐の破格に対する配慮が重要である。

中咽頭腫瘍
舌喉頭蓋部領域では、舌動脈からの舌背枝や舌骨上枝から血流を受け、喉頭蓋谷では、上甲状腺動脈の舌骨下枝,上喉頭動脈が分布する。側壁型・後壁型では 上行口蓋動脈、扁桃枝、上行咽頭動脈が栄養血管となる。上壁型 軟口蓋、口蓋垂の腫瘍では、上行口蓋動脈、が主な栄養動脈であるが顎動脈の下行口蓋動脈も関与する。

下咽頭腫瘍、喉頭腫瘍
上甲状腺動脈の上喉頭動脈、舌骨下枝や時に舌動脈の舌骨上枝も下咽頭に分布する。また、腫瘍が食道に進展する場合は、上甲状腺動脈の食道・咽頭枝が分布し、下甲状腺動脈と吻合している。特に腫瘍が声門下領域や食道に進展する場合は上・下甲状腺動脈の検索が必要である。喉頭腫瘍では主な栄養動脈は上甲状腺動脈より分岐する上喉頭動脈であるが、さらに甲状腺枝からも細かい動脈枝が腫瘍の一部を灌流する場合もある。また、声門下領域に進展する症例では下甲状腺動脈からの下喉頭動脈からの血流もみられる。

頸部転移リンパ節への栄養血管
深頸リンパ節へは後頭動脈から分岐する胸鎖乳突筋枝や上甲状腺動脈あるいは顔面動脈からの枝が関与するが下位のリンパ節には頸横動脈や上行頸動脈など鎖骨下動脈の枝が分布するがアダムキュービッツ動脈が分岐することがあるので注意が必要である。

学 歴・職 歴:1981,3 岩手医科大学歯学部卒業
        1985,3 岩手医科大学医学部卒業
        1987,5  岩手医科大学医学部研修医修了
        1987,6 岩手医科大学放射線医学講座 副手
        1987,11 岩手医科大学放射線医学講座 助手
        1993,12-1994,5 New York Mount Sinai Medical Center,
                  Department of Radiology, Research Fellow
        1997, 6   岩手医科大学放射線医学講座 講師
        2003, 12 岩手医科大学放射線医学講座 助教授(准教授) 
        2010,4 岩手医科大学付属病院中央放射線部副部長
        2016,4   総合南東北病院頭頸部画像診断センター長

 資   格 :医師免許(登録番号 292971号)  1985,5  
        歯科医師免許(登録番号 83267号) 1981,6
        医学 博士(岩手医科大学)1993,9
        第1種放射線取扱主任 2009,9

所属学会・役員:日本医学放射線学会放射線診断専門医・同研修指導医
        日本核医学会核医学専門医・核医学指導医・PET認定医
        日本医学放射線学会代議員(平成24年4月より平成26年3月)
        学会雑誌査読委員(日本磁気共鳴学会誌、日本医学放射線学会誌、JJR)

 受   賞 :2nd Prize for Best Scientific Poster Presentation,
        ESHNR2014 (Marseille)